「野球道」の再定義による 日本野球界のさらなる発展策に関する研究
トップスポーツマネジメントコース5009A307-3 桑田 真澄 研究指導教員:平田 竹男 教授Ⅰ.
序論 筆者は日本のプロ野球および米国メジャーリーグの選手として23年もの長期にわたって現役生活を続ける
幸運に恵まれた。現役生活から退いた今、プロ・アマを問わずわが国の野球選手を取り巻く環境を整備すること
で、野球界への恩返しをしたいと考えた。近年、プロ野球の人気低下が叫ばれている。実際に巨人戦の地上波放
送試合数は激減しており、「観るスポーツ」としてのプロ野球の人気は以前と比べて低下傾向にある。しかし、
「プレーするスポーツ」としてのアマチュア野球は現在でも根強い人気を誇っており、少子化の中で中学生と高
校生の野球人口は近年増加している。将来の野球界を支えるのは、現在アマチュア野球界でプレーする若い選手
たちであり、そうした「金の卵」たちが次世代の野球界を支える存在へと成長させるためには、プロとして活躍
しうる選手の育成のみならず、あらゆる分野の第一線で活躍できる人間性豊かな人材に育成する必要がある。今
日の野球界は数多くの問題点が指摘されている。それは、プロのみならず、アマチュア野球界も同様である。
しかし、本来主役であるはずの選手が、現場で起きている問題を提起することは皆無に等しかった。
そこで、本研究では選手の視点を含めながら、野球界の抱える問題点、特にアマチュア野球界の抱える問題点を中心に検討することとする。
Ⅱ.目的
本研究の目的は、わが国のアマチュア野球界が抱える問題点を理念レベルから再検討し、野球界全体のさらな
る発展に向けた提言を行うことである。
Ⅲ.研究手法 本研究では研究目的を達成すべく2つの分析を行う。
1.日本野球界の歴史に関する文献・インタビュー調査日本野球界の歴史を、文献調査やインタビュー等を元に分析する。武士的野球(精神野球や根性野球)の源流を探ることを目的として、野球界の根底に存在する理念を探る。
2.プロ野球選手に対するアンケート調査プロ野球選手に対して、中学時代、高校時代、大学時代の練習時間や練習の効率性、指導者の指導法などを切り口とし、それぞれの実態と、どのような感想を抱いてきたかを調査した。この調査によって、日本野球界の最高峰であるプロ野球の選手が、アマチュア時代に受けてきた指導の問題点を抽出する。
また、選手のセカンドキャリアや、野球界の改革に対しての意識についても調査する。
Ⅳ.研究結果 野球界の歴史を分析した結果、武士的野球(精神野球や根性野球)といった概念は戦前から存在し、特に飛田穂洲の提唱した「野球道」の理念が戦後まで受け継がれていることがわかった。
また、飛田穂洲の「野球道」は政府・軍部の圧力から野球を守るためのものであり、戦後、アマ球界の独立性を維持するため、その精神が学生野球憲章に継承されたであろうということが明らかになった。
次にプロ野球選手に対するアンケート調査結果を分析し、プロ野球選手が中学生、高校生、大学生時代に受けてきた指導における問題点を抽出した。
結果として、長すぎる練習時間、非効率的かつ非合理的な練習、体罰の多さ、故障防止への意識の低さと故障選手に対するプレーの強要などの問題点が浮き彫りになった。
また、多くの選手がプロ・アマ両方を含めた野球界改革の必要性を感じていることがわかった。
Ⅴ.考察歴史分析の結果から、戦前から現代まで野球界に脈々と受け継がれてきている飛田穂洲の「野球道」は、「練習量の重視」「精神の鍛錬」「絶対服従」の三点に集約されることを述べた。また、飛田は戦中の野球害毒論から野球を守るためにこの「野球道」を提唱した可能性が高く、時代の変化に合わせて、「野球道」の理念を再定義することが必要ではないかという考察を行った。
プロ野球選手に対するアンケート結果の考察として、2つの主張を展開した。一つは、非効率的かつ非合理的な練習や体罰の多さなどは改善していくべきものであり、これらがいまだに残っている背景には、野球界に共通する理念が根強く存在しているのではないかという考察である。
また、故障防止への意識の低さと故障選手に対するプレーの強要などの問題点も浮き彫りになっており、これらの問題点の背景には、それぞれのカテゴリーで「勝利至上主義」が追求されすぎており、選手を「育成」するという概念が欠けているのではないかという考察を行った。そこで、本研究のまとめとして、現代の時代背景に照らし合わせて、「野球道」を新しく定義した。
「練習量の重視」を「練習の質の重視(science)」、「精神の鍛錬」を、「心の調和(balance)」、「絶対服従」を、「自分と他者の尊重(respect)」と置き換え、飛田穂洲が提唱した「野球道」の根底にある「武士道精神」の変わりとなる理念として、「スポーツマンシップ」を置いた。(図1)以上の理念をアマチュア野球界、そして野球界全体で共有することで、たとえトップ選手になれなくても、社会に有用な人材となって末永く野球界を支援してくれる人の輪が広がり、野球界のさらなる発展へと寄与できるのではないかと考えられる。
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